北の総合診療医 - その先の、地域医療へ(函館1)

函館稜北病院

副院長・総合診療科科長 川口篤也 医師

2022.11.04 記事

プロフィール
北海道函館市近郊出身
2003年 北海道大学医学部を卒業
2003年 勤医協中央病院 初期研修医
2005年 勤医協苫小牧病院 内科
2006年 釧路協立病院 内科
2008年 勤医協中央病院 内科・総合診療部
2012年10月 東京医療センター 総合内科
2013年4月 勤医協中央病院 総合診療センター
2016年4月 函館稜北病院に勤務
資格
日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医
日本内科学会 総合内科専門医・指導医
日本在宅医療連合学会 認定専門医・指導医
日本感染学会 認定ICD
趣味
アニメ、旅行、犬の散歩
座右の銘・モットー
おもしろき こともなき世を おもしろく

総合診療医は「人生の伴走者」と話す川口先生。医療の枠を越えて人の生活に寄り添うその姿勢は、病院内にとどまらず地域丸ごと巻き込んで地域医療の質の向上の取り組みにまで広がっています。そんな取り組みも通して、決して楽ではない総合診療医という仕事も、心の持ちよう、物の見方でいかようにも“おもしろく”できると話してくれました。医者が楽しそうにしていなければ患者さんをハッピーにすることはできない、自らがまず楽しみ、そして周りをハッピーにしていくことが総合診療医のやりがいである。冷静な口調で端的に質問に答えるインタビューの中で、時折見せる柔和な笑顔が印象的な先生でした。

  • 川口先生の写真1

現状と当院の取り組み

函館市は人口が毎年3,000人弱減少する中で、医療需要は今をピークに減少傾向となりますが、介護需要は2030年のピークまで増え続けると予想されており、今後10年~20年くらいは、増える介護需要を市全体でどう支えるかが問われています。

特に介護需要が増えるということは、フレイルや寝たきりの方が増えるということなので、訪問診療の需要も増えることが予想されます。そして、訪問診療を受けている患者さんは色んな症状や疾患を持っている、いわゆるマルチプロブレムな患者さんが多いので、限定的な部位を診る専門医よりも、複数の症状を総合的に診て適切な治療につなげるという意味で、総合診療医のニーズはどんどん増えてくると思います。

  • 函館の写真

地域医療を支える地域の病院

そんな中で当院としては、入院では亜急性期や回復期の患者さんに対応する病棟を持って、外来ではかかりつけ医として地域住民の日常的な健康問題に対処しています。特に在宅診療の患者さんや施設での療養を行っている患者さんが入院に移ったとしても当院のベッドで診ることができますし、逆にその患者さんがまた在宅に移ったとしても同じ医者が診ることになるので、患者さんに対して非常にシームレスに寄り添うことができます。

このように総合診療医のいる病院に病床もあるということは当院の強みですね。函館市でも同じ対応ができる病院というのは数えるほどです。

  • 函館稜北病院の外観の写真

地域医療に欠かせない他機関との医療連携

例えば、ある急性期病院から紹介された患者さんが居て、当院で在宅から看取りまでした患者さんが最期をどのように迎えたのかということは紹介元の病院の方たちは分からないですよね。それを「デスカンファレンス」という形でかかわった医療機関の方々に集まってもらって振り返りを行っています。急性期の病院を会場にして開催すると意外と集まりやすくなって、過去には150人規模のカンファレンスになることもありました。

そこで振り返る内容もできるだけ具体的に「本人の意向をかなえるためにこんなことをした」とか「最期はこんな様子だった」などと私たちだからフィードバックできることをより具体的に伝えるようにしています。すると、今まで患者さんの最期のことまでは気に留めることができなかったスタッフの方々にとっては、すごい気づきがあるんですね。

急性期病院で治療していた時にはほとんど寝たきりで何も感じ取れなかった患者さんが、在宅や亡くなるまでの間に「そんな人生があったのか」と気づけるんです。

そのフィードバックを通して、もっとこんなことができるのでは?とか新たにこんな対応もありなのでは?とか、医療機関や職種を越えて活発な意見が交わされたりして、自然とお互いの仕事に対するリスペクトが生まれてくるんですよね。

地域医療連携の課題と取り組み

地域医療を進めるうえで「相互理解」というのは非常に重要なポイントで、お互いの立場や環境などの違いを理解して相互に尊重しながら共同できるかがカギなんです。

例えば1つの病院内でも各セクションの間でちょっとした対立があったりしますけど、実際それはお互いの仕事とか事情とかが見えていないからなんですよね。それが他の病院とか他の機関とかになると尚更見えないので相互理解というのは難しい課題です。

でも、逆に言うと、お互いの事情が分かれば物事はスムーズに進むもので、そのためにもオープンカンファレンスを通して双方が腹落ちするような仕掛けにどんどん取り組んでいきたいですね。

ただ、オープンカンファレンスに来ない人にどうやってアプローチするかというのも一つの課題です。オープンカンファレンスに来る人は元々連携の意識が高い人たちですから。例えば、患者紹介の手紙の書き方ひとつとってもその患者さんの背景や経緯を丁寧に書いて在宅医療側の状況をより理解してもらえるようにしています。

また、たとえ送られてきて1年経ってから亡くなった患者さんのことでも紹介元の先生には必ず手紙を書くようにしています。私のところに来てからの様子や過ごし方、最期の状況まで書いて、自分の目の前から居なくなった患者さんのことも意識してもらえるようにしています。

そういった地道なことをしながら、コミュニケーションを取っていくことで相互理解につながっていけばと思っています。

  • 川口先生の写真

総合診療医を目指した理由

研修医時代に遡りますが、1つの病気を治すということよりも、その病気を持った人を支えるというか、その人自体がどうなるかということのほうに興味を持ち始めたんです。例えば、胃がんなら「胃がん」が治ればいいのですが、患者さんってそのほかにも病気を持っていたり、家族関係で悩んでいるとか、そういった問題に“医療という立場”から自分が役に立てたらいいなと、そこにやりがいを見出していったんですね。

それで、最初は感染症医療に進もうと考えていたんですけど、それは機会に恵まれず医者5年目くらいの時に勤医協中央病院の総合診療科に戻ったんです。その時にちょうど「家庭医療学」などを学んだ先生が居て、すでに学問として存在していることを知って、さらには、「医学教育」に出会って、医者への教育も確かに大事だなと感銘を受けて、総合診療の分野に進むことに揺るぎがなくなりました。

結果的には感染症のほうに進まなくて良かったなと思うくらい、自分のやりたかったことってこれなんだなと実感しています。

その人の人生に最期まで伴走できる

患者さんには色々なケースがありますが、年齢や性別を問わずその人の人生に伴走しながら健康問題に関われるのが総合診療医としてのやりがいです。例えば複数の病気を持っていて、たまに専門の先生に手術してもらったりしますけど、入院していても外来で来ても基本的には総合診療医として私が診て、最後は外来に来られなくなって在宅になって、という形で患者さんと共に人生を歩むかのごとく、その人とずっと向き合っていけるところがいいですね。

そして、例えば一人の患者さんを看取ったとしても、その患者さんの奥さんを診ることになったり、子どもさんを診ることになったりって、その人とその家族、その人生に長く伴走できて、医療者という立場から人の役に立てるというのが私のやりがいです。

患者さんとその周りを診るのが総合診療医

総合診療医にとって、治療方針を考えていくときにその患者さんの周りや背景がどういう状態なのかということが非常に重要になります。例えば、本人の具合が悪くなった時に誰が主導権を持って面倒をみていくのかとか、子どもがそばに居るのか居ないのかで外来に通う状況も変わりますし、総合医療にとっては患者家族やその周りというのは切っても切れないんですよね。

その患者さんの情報を引き出していくことは簡単とは言いませんが、3年間トレーニングしていけば特段難しいことではなくなります。むしろ、患者さんのことだけじゃなくて家族の状況が分からないと気持ち悪くなりますね。研修医の先生たちも最初は気づかなくて指導医に指摘されて初めて気づく観点もあるんですが、治療方針を考える時に前に進めなくなるので自然と患者さんの周りや背景に目がいくようになってきますね。

  • 川口先生の写真2

総合診療医のイメージについて

総合診療医はいわゆる町医者的な診療所の家庭医から、外来も入院も在宅もやる私たちのような医者もそうだし、大きな病院の総合診療部門に在籍する総合診療医も、全て「総合診療医」であって日本における総合診療医の定義は非常に幅が広いです。だから世間のイメージもふわっとしているのかもしれないですが、総合診療医はそれだけ守備範囲が広いんだと言えますね。

総合診療医のかっこいいところ

「ウチじゃない」とは言わない。

もちろん、全部を最後まで診るわけではないですが、ハナからうちが診るべき症例じゃないといって断るようなことはせず、どんな患者さんが来ても一旦は全て受けとめて診るというところは他科にはないことだし、総合診療医の腕の見せ所ではあると思います。

あと、NHKの「ドクターG」なんかでやっていた「診断推論」は総合診療医の仕事のごく一部ではありますけど、他科で診断がつかないような難しい症例を診断するというのは総合診療医のかっこよさかもしれないですね。各専門科との境界領域が難しい症例もけっこうあるので、そんなケースでは総合診療医が力を発揮します。

総合診療医に迷いを感じている学生に

どの地域に行っても総合診療医は居るので、実際に総合診療医は何をやっているのかをその目で見て、色んな健康問題にどうやって対処しているのか一度見てもらいたいですね。「患者さんの背景が大事」って言うけど、実際どうやってそこに総合診療医がアプローチしているのか、診療に同席することで実体験できますから。

そして、病気だけでなく、その人の人生にまるごと伴走していくことにやりがいを感じる人、是非総合診療医になってください。

研修施設としての函館稜北病院の強み

104床という小さい病院ではありますが、診療所の家庭医のようなこともできますし、入院も診ることができて、在宅診療も行っているので、色んなフェーズの患者さんをシームレスに診られるというのが一番のアピールポイントですね。

また、リハビリ専門医も3人居てリハ職も60人くらい居るのでリハビリも盛んです。家での生活を支えるにあたってリハビリの観点は非常に重要なので、総合診療医として必要なリハビリ知識や視点も学ぶことができます。

  • 函館稜北病院のリハビリ施設の写真

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