水素や燃料電池に関する基礎知識

水素や燃料電池に関する基礎知識

今、なぜ水素?

 水素は、多様な一次エネルギー源から様々な方法で製造でき、気体、液体などあらゆる形態で貯蔵・輸送が可能です。
 また、利用段階でCO2を排出せず、燃料電池技術を活用することで高いエネルギー効率が得られ、さらに自立・分散型電源として非常時に外部に電気を供給することが出来るなど、優れた特性を有しており、将来の二次エネルギーの中心的役割を担うことが期待されています。
 水素エネルギーを利用することができる社会インフラを整えるには、長い時間がかかりますが、全国各地で水素社会の形成に向けた取組がはじまっています。

 

 

水素の特性

 

 

  • 省エネルギーにつながる
     水素からエネルギーを取り出す装置のひとつである燃料電池は、水素と酸素の電気化学反応から電気エネルギーを直接取り出すため発電効率が高く、また、反応時に出る熱を有効利用することで、高い総合エネルギー効率を得ることができます。

     
  • 製造原料の代替性が高い
     副生水素、原油随伴ガス、褐炭といった未利用のエネルギーや、再生可能エネルギーを含む多様な一次エネルギー源から様々な方法で水素を得ることができます。

     
  • 二酸化炭素排出量を削減
     水素は、利用段階では二酸化炭素を排出しないため、再生可能エネルギーから水素を製造することで、二酸化炭素排出量を大幅に削減することができます。

     
  • 水素・燃料電池関連の市場
     我が国の水素関連市場は、2030年に1兆円程度、2050年には8兆円程度に拡大するとの試算[1]があります。我が国の燃料電池分野の特許出願数は世界第1位[1]で、水素利用分野における関連産業の振興が期待できます。 

 

 

水素の安全性

 

 

 水素は地球上で最も軽い物質で、空気に対する比重は0.0695(空気の1/14以下の軽さ)しかないため、拡散速度が速く[1]、開放された空間に放出された場合は速やかに拡散し、燃焼範囲未満の希薄な状態になります。密閉された空間で燃焼範囲内の濃度まで滞留するという限定的な条件下において着火エネルギーが加わらない限り、自然に着火・爆発することはありません。

 水素の特性を正しく理解して、以下の4項目にあげられるような適切な管理を行うことで、ガソリンや都市ガス・LPガスと同様に、安全に利用することができるエネルギーです。

  • 漏洩防止
     ガス漏洩検知器により、水素漏れを検知するとともに、検知した場合には設備を停止
  • 滞留防止
     建屋の換気やキャノピーに傾斜をつけるなど、水素が拡散しやすい構造
  • 着火防止
     静電気の防止、着火の要因となる機器、危険物との法定隔離距離の確保
  • 周囲への影響防止
     高圧ガス設備から敷地境界までの法定隔離距離の確保や、障壁の設置による周囲への影響防止

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【水素の安全性に関する4重の安全バリア】

 

 

燃料電池

 

 

 燃料電池(Fuel Cell; FC)は、電気化学反応により、燃料が持つ化学エネルギーから電気エネルギーを取り出す装置のことをいい、水素をはじめ、炭化水素やアルコールなど、様々な燃料を利用するものがあります。

 水素を燃料とする燃料電池は、水の電気分解の逆反応を利用しており、負極に水素(H2)、正極に酸素(O2)を供給して反応させることで、エネルギーとして電気及び熱、反応後物として水(H2O)を得ることができる装置です。燃料電池から排出されるものは水(多くは温水や水蒸気の形態)だけであり、地球温暖化を引き起こすと考えられているCO2の排出はありません。

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【燃料電池の原理】

 また、燃料が持つ化学エネルギーを、熱エネルギーや機械エネルギーを経ることなく、直接電気エネルギーに変換することができるため、発電効率は火力発電などよりも高く、騒音や振動も少ないという特徴があります。
さらに、電力需要があるところで燃料電池による発電を行い、反応時に生じる熱を有効活用することにより、排熱によるエネルギー損失を抑えることができ、さらに高い総合エネルギー効率を得ることも可能です。

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【燃料電池のエネルギー効率】 (図を拡大) [1]

 

 

燃料電池自動車(FCV)

 

 

 燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle; FCV)は、車両に充填した水素と空気中にある酸素を燃料電池で反応させて発電し、モーター駆動により走行する自動車です。走行時には、二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)などの大気汚染物質を排出せず、水(H2O)だけを排出するという「究極のエコカー」として将来の普及が期待されています。

国内自動車メーカーからは、以下の2車種が販売されています。

 

 現在、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)や、電気自動車(EV)など、様々な種類の次世代自動車が販売されていますが、FCVはゼロエミッションかつ長距離走行が可能で、エネルギー補給が短時間で済む、という点が大きな特徴です。

 EVもゼロエミッションの自動車ですが、巡航距離や燃料価格等の要因によって次世代自動車の棲み分けがなされていくと考えられています(EVは比較的車両サイズが小さく、航続距離が短い領域で利用、FCVは比較的車両サイズが大きく、航続距離が長い領域で利用)。[2][3]

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【図3-3:様々な次世代自動車の特徴の比較】 ([4]を基に作成)

 

FCVの普及

 再生可能エネルギー・水素等関連閣僚会議によって決定された「水素基本戦略」(2017年12月決定)では、モビリティにおける水素利用の中核はFCV・水素ステーションの普及としており、FCVについて、2025年までに20万台程度、2030年までに80万台程度の普及を目指すとしています。

 国が設けたこの目標に沿い、道においても、「水素サプライチェーン構築ロードマップ」(2018年7月策定)において、2030年に9千台程度の普及を目標とし、道内におけるFCVの普及促進を進めています。

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【水素基本戦略のシナリオ】 (図を拡大)

 

 

水素ステーション

 

 

 水素ステーションは、燃料電池自動車(FCV)に燃料となる高圧水素を充填する施設で、ガソリン車におけるガソリンスタンドに相当するものです。

 水素ステーションは方式によりいくつかの種類があり、その場で水素を製造して利用する「オンサイト式ステーション」、他所で製造した水素を、カードルやローリーで輸送してきて利用する「オフサイト式ステーション」や、水素ステーションの機能をコンテナ等に搭載し、移動することができる「移動式ステーション」があります。

 水素ステーションの基本的な構成は、水素を82MPa程度(約800気圧)にまで圧縮する「圧縮機」、圧縮した水素を蓄えておく「蓄圧器」、充填時の温度上昇を防止するために高圧水素をマイナス40℃程度まで予冷するための「プレクーラー」、高圧水素をFCVに充填するノズルなどを備えた「ディスペンサー」などです。
 このほか、前述のオンサイト式ステーションの場合は、都市ガスなどを水蒸気改質したり、水を電気分解したりして水素を製造する「水素製造装置」が設置されています。

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【水素ステーションの設備】 (図を拡大)

 

 

非常時等の活用

 

 

 

FCVの電源利用

 燃料電池自動車(FCV)は、水素で発電し、モーターを駆動させる電動車の一種であることから、非常時には、FCVを自立・分散型電源として活用することも可能です。

 2018年9月に発生した北海道胆振東部地震に起因して発生した道内全域に及ぶ大規模停電時においては、自治体が公用車として導入していたFCVを活用し、市民等へ電気を提供するサービスを展開しました。

  • 札幌市
     市役所本庁舎で、市民や観光客約2,000人(※)を対象に携帯電話等の充電サービスを実施しました。(※本庁舎の非常用発電機からの給電を含む。)

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【停電時におけるFCVの活用(札幌市役所)】

 

  •  室蘭市
     市内自主避難所に設置されていたV2H設備(Vehicle to Home:電動車の電力を建物内に供給する定置型給電器)を介して、避難所に給電。照明・テレビや携帯電話への充電に活用しました。

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【停電時におけるFCVの活用(室蘭市避難所)】

 

 

 

 

 

 

燃料電池による非常時対策

 停電対応システムを装備した家庭用燃料電池(エネファーム)は、停電時においても、都市ガス・LPガス及び水道水の供給があれば、電気とお湯を供給することができるものがあります。

 また、再エネ電力(太陽光発電・風力発電など)で水を電気分解することで水素を製造することも可能であり、水素はガソリンや軽油などと異なり、劣化することがなく保存性に優れるという特長があることから、災害に強い安全・安心な地域づくりやBCP対策という観点からも注目されています。

 

 


 

 

[参考文献・引用]

[1] 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO水素エネルギー白書」(2014)

[2] 次世代自動車戦略研究会「次世代自動車戦略2010」(2010)

[3] 資源エネルギー庁燃料電池推進室「燃料電池自動車について」(2018)

[4] 水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)「平成21年度JHFCセミナー(第8回)セミナー資料集」(2010)

 

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