寿都町立寿都診療所
2019.03.29 記事
看護職として20年あまりのキャリアをもつ目時さん。長く総合病院に勤務する中で、
自分なりに感じていた患者さんとのかかわり方への思い…。
7年前から寿都診療所に勤務。患者さんの病気を治すことだけではなく、生活環境や家族のサポートなどを考えながら仕事をしている「それが当たり前」の環境…。ここは「自分の思っていたことができる」と実感したそうです。
助産師、看護師として、院内はもとより地域活動にも積極的に取り組んでいる目時さんに、日々の仕事のこと、総合診療医とのかかわりなどについてお聞きしました。
患者さんの退院後の生活環境のことも考える「それが普通」の環境
目時さんが寿都診療所に勤務して8年目を迎えています。
以前勤務していた大規模病院時代、「患者さんが今退院してこのまま家に帰ったら生活は大丈夫なんだろうか」、「もっといろいろな支援ができるのではないか」という思いがあったものの、治療中心の業務の中、「患者さんが帰ってからのことまで…。そこまでやらなくても」という仕事環境にあったそうです。
ところが寿都診療所では「患者さんの退院後の生活環境のことも考えることが、ここではそれが普通。当たり前にやって良い環境なんです。先生たちはそういうことを大事にして協力してくれます」。
病院勤務時代のモヤモヤした思いがすぅーと晴れたと振り返ります。寿都診療所は目時さんがずっと望んでいたことができる環境でした。
「総合診療医の先生方は、患者さんの生活やご家族のことを抜いてしまうと成り立たないと思います。何よりそこを大事にしてくれます」。
スタッフ全員が協働するチーム医療
コミュニケーションの取りやすさも
道内の多くの過疎地が抱えている人手不足。寿都診療所も例外ではありません。様々な仕事をいろいろな人が協力し合うことが必要になります。目時さんも看護の仕事だけではなく、幅広く業務に携わっています。
「他の病院への予約や患者さんとの調整はもとより、心電図や血液の検査なども外来の看護師が行うこともあり、いろいろなことができるようになりました」。
院内での協力体制を支えているひとつに、「コミュニケーションがとりやすい」ことがあるようです。今までは、医師に話をするときに敷居が高いと感じていたこともあったそうですが、「先生方が親しみやすく、スタッフからも相談しやすい」といいます。「先生から『あの人どう?』『どう思う?』と意見を聞いてくれますし、私たちからも患者さんについて相談できます」。
そうしたスタッフ間の距離はとても近い環境にあるようです。
週1回の情報交換には院内・外から多職種が参加
スタッフ間の距離が近いことの特徴的なこととして、週1回行っている情報交換が挙げられます。
「看護師と医師だけでなく、院内のリハスタッフや放射線技師、さらに役場の保健師、保険薬局の薬剤師等々、患者さんに関わっている多職種が参加して情報を共有する場があるのです」と目時さん。
ときどき看護師と医者の意見の相違はあるそうですが、「同じ方向を向いて意見を出し合える場はすごく大事だと思います」。
患者の安心感につながっている言葉「いつでも戻っておいで」。
寿都町の総合診療医について、目時さんは地域の患者さんの声を次のように紹介してくれました。
「ああ、ここで病気を見つけてもらって、もう帰って来れないと思ったけど、先生も看護師さんも、いつでも戻っておいでって言ってくれるからまた戻って来たよ」。
診療所を受診し、適切な科を迅速に紹介してもらえる。良くなったら戻ってきて「責任もって最後まで診ますよ」と言ってくれる。「安心感があるみたいです。それを地域の人はみんな言ってくれますね」。
子供からお年寄りまで診る、
「総合診療医」のことをもっと広めていければ
一方、小さな子供を持つ母親は、小児科専門医を受診する傾向があると目時さんは分析しています。また、寿都診療所の産婦人科の診療日は週に1回しかないため、そういう意味では、地域的に子供を育てにくい環境だといいます。
しかし目時さんは、「ここには子供からお年寄りまで診る総合診療医がいますので、小さなお子さんを持つお母さんにも来ていただいて相談してもらう、総合診療医で診ることができるものはしっかり診てもらう。専門の先生に診てもらったほうが良い疾患が見つかった場合は、他の医療機関に橋渡しする。こうした医療の連携ができることを広めていければ」と話します。
「子供を育てやすい地域になると、この町がもっと元気になるのかなと思います」。
研修医は地域で鍛えられて巣立って行く
寿都診療所は研修医も受け入れており、目時さん曰く「診療所スタッフ全員で育てている環境といえます。病棟も外来も事務も全部、線でつながっていますから」。
1年間をここで学ぶ研修医は、最初のころはみんな悩むそうです。地域的に患者さんの言葉(訛り)の問題であったり、患者さんは診療所の先生方に対して非常に身近な存在なため、ストレートに感情をぶつけてきたりすることもあるそうです。それに研修医は、診察以外にも地域に出向いての仕事も多くあります。
「4月に来て夏頃になると壁に当たって…。でも3月に寿都から巣立っていくときは逞しくなって、ちょっと顔つきが変わった感じがします。そんな姿を見ると行かないでほしいな思うんですね」。
人とのつながりを生む思春期教室が大事
患者さんの生活環境などをトータルに診ていく総合診療医と同様に、目時さんは地域とのかかわりを大事にしています。この地域の助産師として、とても大事にさせてもらっている“思春期教室”です。
“思春期教室”は、後志管内の高校や中学校、小学校からの依頼を受けて開いており、業務の合間を縫っての取り組みだけに、「年に4~5件ほど」応じているといいます。
「地域の児童や生徒たちが正しい性の知識を持って、大人になっていくのに必要な正しい情報が得られるような授業や講義を、ずっと続けていきたいと思います」。
目時さんのライフワークといえる“思春期教室”。そこから生まれる児童、生徒とのつながりは、一人ひとりの成長過程のみならず、地域の人々の人生をも診ていくことにつながっています。
「診療所に来た生徒さんが『あっ思春期教室してくれた看護師さんだ』と言うので、『このあいだ話を聞いてくれたよね。今日はどうしたの?』、『ちょっとお腹が痛くて』というような会話が生まれる。小学校のときに話しているけど、この子が中学生になるとどう成長しているのかなと考える。私たちもそうしいた視点で見ています」。
そこが総合診療医との共通点であり、その人のライフサイクルをずっと診ていくことができる…。
「家族であれば、お孫さんや曽孫さんまでずっと。もう家系図ができるくらい」。
こうした、地域の情報が点ではなく線でつながることは、とても良いことだと思いますと目時さんは話してくれました。